ワクチンカンファレンス in 東京

皆さん、こんばんは。糸魚川こどもクリニックの渡辺です。風が涼しくなり秋の到来を感じさせる一方で、遥か南の海では台風が発生するという、例年とは異なる季節の変わり目ですがいかがお過ごしでしょうか。気圧、気温、天候の変化が著しく、体調管理が難しい時期ですので、お身体を壊されませんようにご自愛くださいませ。

さて、病気にならないための人類の英知と言えばやはり「ワクチン」ではないでしょうか。ワクチンの普及のおかげで、かつては「死の病」と恐れられていた天然痘や結核、破傷風、その他にも幼少時に発症すると重症化して死に至るケースもある肺炎球菌・Hib髄膜炎、ジフテリア、百日咳、ポリオ、麻疹といった病気の発症率を限りなく『0』に近くすることができました。そのワクチンについて、最新の知見と今後の課題について東京で勉強会が開催されましたので出かけて参りました。

2018年9月8日、やってきた会場は東京都品川区にある新高輪プリンスホテルです。「高輪」という字が読めずに困りましたがクリニックのスタッフに「たかなわ」と読むと教えてもらったので無事に会場にたどり着くことができました。会場に来てビックリ、20-30人か、大きくても100名程度の会議だと思っていたのですが、なんと

会場の端がかすんで見えるほど広大で、横幅が10メートルはあろうかというモニターが正面に二枚も設えてありました。芸能人の結婚式の披露宴はこんな会場で開催されるんだろうな、などと想像してしまいます。さらに驚くべきことは、この会場に集まった人たちのすべてが小児科医!総勢約500名!北は北海道から南は沖縄まで全国の先生方が本会議のために集まったようです。

続いて、講演の内容です。ワクチンの権威とも呼ばれる著名な先生3名がご講演をされました。

(1)ワクチンの課題と小児科医の役割、宮﨑千明 先生

(2)ワクチンの副作用は予測できるのか、石井 健 先生

(3)グローバル時代の子どもたちを守る予防接種戦略、岡田 賢司 先生

の三題です。非常に興味深く、すべてについて詳細を記載したいのですが、とりあえず概要を記載したいと思います。

(1)では沖縄で発症してしまった麻疹の集団感染について触れました。ところで、皆さんは麻疹をご存じでしょうか。自分は20歳の時に海外旅行から帰ってくるなり発症してしまい、40度を超える発熱、倦怠感、頭痛に苛まれ、1週間近く入院するハメになりました(汗)。これを小さいお子さんが発症してしまったら確かに致死的になるなと身をもって知ることになりました(少々脱線してしまいました)。さてさて、自分の時もそうでしたが麻疹は国内で発生して感染が広がるということは殆どありません。沖縄県の場合(先の東京の流行でも)、近隣諸国の麻疹流行地から観光でやってきた訪日観光客が感染源となってしまいました。そこに不幸にもワクチン接種率が低い(とはいっても麻しん・風しんワクチン接種率は90%前後)ことが重なり、免疫を持っていない住民が多かったために感染が拡散することになってしまいました。外から侵入してくる感染源に対して身を守るためには、己のみならず地域の住民がワクチンの接種率を限りなく100%に近づけなくては防御しきれないのですね。余談ではございますが、任意接種のロタワクチンやおたふくかぜワクチンが70-80%まで接種率が上がってきました。素晴らしい接種率とかつては思っておりましたが、感染の拡散を防ぐにはまだ十分とは言えない状況なのだと思い知らされました。

(2)は研究の要素が強い内容でしたが、簡単にまとめると、特異的な遺伝子を持つ人にはワクチンを接種しても効果が出ないことがある、という内容です。しかも、最先端の技術を用いた血液検査でそれを調べることも可能である、とのことでした。たしかに、予防接種をしたのにもかかわらず病気を発症してしまう人って居ますよね、特にインフルエンザワクチンを接種したのに発症される方が多いように思います。実はそういう方はワクチンの効果を弱めてしまう特殊な遺伝子を持っていることが研究段階で分かっており、それを血液検査で調べることも可能である、というのですね。そこまで医学が進歩しているなんて知りませんでした。

(3)2020年に東京オリンピックが開催されます。全世界の人々がこのスポーツの祭典に集まると思います。集まるのは人々だけではありません、人を介して病原体も集まってしまいます。ポリオや麻疹といった日本では殆ど流行しない疾患が流行している地域の人たち、経済的な理由や宗教上の理由でワクチンを接種していない人たちも訪日します。そういった人たちと接触しても重篤な疾患を発症しない、拡散させないためにも予防接種が重要になります。今こそ海外から持ち込まれた感染症を拡散させないためにも予防接種にご協力ください。そうです、お子さまだけではありません、41歳以上の特に男性の方は麻しん・風しんのワクチンをされていない方が多いですし、ポリオや百日咳の抗体も8‐10歳頃から減少していきます、大人の皆さんもワクチンの接種が求められているものがあります。ぜひ、何十年ぶりかの母子手帳を開いて、接種していないワクチンがあれば積極的に予防接種をしましょう。感染の拡散を防ぎ、大切な命を守るために。

この白熱したワクチンカンファレンスが終わったのは20時30分頃、糸魚川行きの終電はもちろんありません。当日は東京で宿を取り、翌日は日曜診療が控えているために午前9時までには糸魚川に戻らなくてはなりません。

皆さんご存じの東京駅です。時計の針は見にくいと思いますが5時30分を過ぎたところです。午後5時であればもっと人通りが多いはずですがこの通りがらんどうです。そうです、9月9日午前5時30分の東京駅です。朝一番の新幹線に乗って糸魚川へ戻り日曜診療の始まりです。長距離の移動と、慣れないスーツで疲れが出たか、帰りの新幹線では始終眠っておりました(汗)。

そんなこんなではございますが、新しい知識を得て、経験値を高め、地域の皆さんのために渡辺はこれからも尽力いたします!

(了)

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